時の落書き

私がコンサルティングした空き家で、かつて起きたエピソードを少し紹介します。
(なお守秘義務もありますので仮名とどの家か特定できないようにしています)
下記の事例は珍しく不思議な縁があったのでしょう

古びた木造の家の柱には、鉛筆の線がいくつも刻まれていた。そこには、「たかし 110cm」「さや 98cm」など、子供たちの成長の記録が残されている。家族の団らんの中心にあるその柱は、まるで家族の歴史を語る証人のようだった。

「今日は誰が一番大きくなったかな?」
父の声に子供たちは嬉しそうに並び、母が笑いながら鉛筆を握る。「たかしくん、2センチも伸びたね!」と母が声を上げると、「やった!」とたかしは飛び跳ね、妹のさやは「わたしも!」とせがむ。家族の笑い声が響く、温かな日常だった。

しかし、そんな幸せな日々は突然終わりを迎えた。

父の会社が倒産し、家族はこの家を手放さなければならなくなった。子供たちにとっては生まれてからずっと過ごしてきた家。「引っ越したくない!」と泣き叫ぶたかしとさやを前に、父と母は黙って抱きしめることしかできなかった。

引っ越しの日、家を出る前にたかしは最後に柱の前に立った。「ここに、また僕の背を刻みたかったな……」その言葉に母の目が潤んだ。「この家は私たちの思い出が詰まってる。でも、大切なのは家じゃなくて、家族が一緒にいることよ」

涙を拭いながら家族は家を後にした。

それから十数年後。

たかしさんは、立派に成長し、仕事も安定してきた。ある日、偶然にもかつての家が売りに出されていることを知る。あの柱の思い出が蘇り、心が震えた。「もう一度、あの家で暮らせるかもしれない……」

彼はすぐに家族と相談し、ついに家を買い戻すことを決意した。

鍵を受け取り、久しぶりに扉を開けると、懐かしい匂いが迎えてくれた。そして何より、あの柱はそのままだった。そこには、幼いころの自分と妹の成長の記録が、色褪せることなく残っていた。

今度はたかしさんが線を引く番になった

たかしさんの子供たちが「お母さん、お父さん、ただいま」

両親は目を潤ませながら頷いた。たかしさんはそっと鉛筆を取り出し、

「今度は、俺たちの子供たちの身長をここに刻んでいくんだね」

シワと白髪が増えた母は静かに頷いた。「あの時、家族が一緒なら大丈夫だと言ったけど……やっぱりこの家があると、もっと幸せな気がするね」

家族はまた、あの頃と同じように笑い合った。

柱に刻まれた身長の線は、時を超えた「落書き」として、これからも家族の歴史を刻み続けていくのだった。

たかしさんにとっては、とても執着のある家と思い出で、私が、不動産サイトSUUMOにかつて売却した物件をエリアや面積、価格で新着情報として登録しておくと、また売りに出された時に、もしかしたら情報を得られるかもしれないと、ある懇親会でアドバイスしていました。

すると数年後、突然連絡があり、かつての自宅が売りに出ているので相談に乗って欲しいと。そこで購入の仲介をして、無事に手にいれることができました。私が一緒に物件を見に行った時に、あの柱が残っているのを見つけて、柱をさすっている姿を見ました。

スーモは検索条件を登録しておくと、メールで登録通知がもらえるサービスがあります、一般的には物件探しに活用されるものですが、今回は特殊な使い方でした。

SUUMO(スーモ)  https://suumo.jp

 

 

 

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