私がコンサルティングした空き家で、かつて起きたエピソードを少し紹介します。
(なお守秘義務もありますので仮名とどの家か特定できないようにしています)
売主の女性は、元学校の先生をされており、私が最初にお会いした時もとても高齢者とは思えない理知的な話ぶりで、訪問したお家もとても整理、清掃がされており、もっというとミニマルな生活をしている感じでした。売却にあたりできれば今の家を再生して使ってもらえる方を望んでおられて、私の古家再生等の本に触れて連絡をいただきました。その方の話を少しします。
夫を亡くして三年、この家でひとり静かに暮らしていた。近くの中学校で英語教師を務め、定年を迎えてからは、家で穏やかに過ごしていた。夫との思い出が詰まったこの場所。しかし、遠くアメリカに住む一人息子に余計な心配をかけたくない。その思いから、この家を売却し、高齢者施設へ移ることを決めた。
すでに多くの荷物は整理し、最低限のものしか手元に残していない。それでも長年共に過ごした本棚には、まだたくさんの本が残っていた。夫と読んだ本、教師として生徒に勧めた本──それらも、すべて片付けた。家族と暮らした思い出が、この家には無数に残っている。けれど、今日すべてに別れを告げる。
それでも、たった一つ手放さなかったものがある。日記帳だ。そこには家族との思い出が詰まっている。この日記さえあれば、寂しくはない。新しい生活の中でも、静かに過去と向き合いながら過ごせる。
ベランダから見える風景は、夫と並んで眺めた四季折々の景色、子どもと語り合った時間を思い起こさせる。だが、今ではこの家は広すぎると感じるようになった。これから先、より安心して暮らすためにも、高齢者向けのサービスが整ったマンションで暮らす方がいい。まだ頭もしっかりしていて、体も動くうちに、自分の意思で決めたかった。
ゆっくりと深呼吸をし、最後にもう一度家の中を見渡す。そして、静かに玄関の扉を閉めた。新しい生活が始まる。過去を胸に抱きながら、これからも穏やかに日々を過ごしていこう。
この家は、若い夫婦に引き継がれました。住む前に耐震改修を行い、安心して住める家に改装して、長く住むつもりで購入されました。これからは、新築だけでなく古いお家を改修することも、住まい探しの一つの選択肢になっていきます。
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