私がコンサルティングした空き家で、かつて起きたエピソードを少し紹介します。(なお守秘義務もありますので仮名とどの家か特定できないようにしています)
「家族の記憶が息づく家」
1. 幸せな日々
かつて、奈良県と和歌山県の県境のその家には佐々木家が暮らしていた。玄関を開けると、木の温もりが感じられるリビングがあり、そこにはいつも家族の笑い声が響いていた。父・洋一は温厚な性格で、母・美咲は料理上手。長男の翔太は活発な性格で、妹の結菜はおっとりした女の子だった。
ある夏の日、家族全員で縁側に座り、スイカを食べながら花火を眺めた。「この家がずっと僕たちを見守ってくれるね」と翔太が言い、美咲が「そうね。ここは私たちの大切な場所だから」と微笑んだ。
2. 時の流れと別れ
しかし、時が経つにつれ、家族はそれぞれの道を歩むことになる。翔太は大学進学を機に家を離れ、結菜もやがて東京の会社に就職。両親は変わらずこの家で暮らしていたが、洋一が病で亡くなると、美咲は一人になった。
子どもたちは帰省するたびに「やっぱりこの家は落ち着くね」と懐かしんだが、やがて忙しさに追われ、帰る回数も減っていった。そして、母・美咲も病気で亡くなり、家は空き家となった。
3. 家族の記憶と再会
数年後、翔太と結菜は久しぶりに実家を訪れた。玄関を開けると、懐かしい木の香りが鼻をくすぐる。埃が積もったリビングに足を踏み入れると、かつての賑やかな日々が蘇るようだった。
ふと、結菜が縁側の隅に目をやると、一冊の古びたアルバムがあった。開くと、幼い頃の家族写真が並び、最後のページには母の手書きのメッセージが残されていた。
「この家は、あなたたちが帰る場所。ここで過ごした時間が、いつまでもあなたたちを守ってくれます。」
その瞬間、翔太と結菜は涙が溢れた。家族の温もりが、この家の隅々にまだ残っていることを感じたからだ。
もうこの家に帰ることはないが、なんとか活用できる人を見つけたいと、
私に依頼があり田舎暮らししてみたいという若いご夫婦に引き継がれることになりました。
きっと新しい家族が「もう一度、この家に灯りをともしてくれる」と思っています。
子供さんたちは、時代を超えて、この家は、再び家族の温もりを取り戻し、新たな思い出を紡いでいくことになるように願っておられました。
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